人のあたたかみは無駄のなか『ままならないから私とあなた』
私とあなたは違う存在。
百合濃度
『ままならないから私とあなた』
著/朝井リョウ
出版/文春文庫
あなたが見ている世界は、ほんとうに「正しい」世界なの?
天才少女と呼ばれ、無駄なことを切り捨てていく薫と、
無駄なものにこそ人のあたたかみが宿ると考える雪子。
すれ違う友情と人生の行方を描く。
・進化するテクノロジーに興味がある人
・純度100%の感情に押しつぶされたい人
・恋愛結婚にあこがれる人
ユッコと薫ちゃん、ずっといっしょにいるのにこんなにもすれ違う。
『ままならないから私とあなた』はこんな人にオススメ
進化するテクノロジーに興味がある人
ユッコと薫ちゃんは中学生のころ、『Over』というバンドに夢中になります。
最新技術を駆使した『Over』のステージに興味津々の薫ちゃんは
自ら研究をはじめ、さまざまな演出やソフト開発ができるようになります。
薫ちゃんが作り出そうとする未来、『Over』が魅せる演出。
小説だけれど、現実にあってもおかしくない技術。
SFよりもずっと身近なテクノロジーに、想像がふくらみます。
純度100%の感情に押しつぶされたい人
ユッコは、いつか『Over』のメンバー、光流ちゃんのように、
自分にしか作れない、私らしい曲を生み出したいと夢見ています。
そんなユッコの夢を応援したい一心で、薫ちゃんは研究を続けます。
薫ちゃんが純度100%の思いでぶつけてくる感情が、
まぶしくて、重くて、とてもつらい。
恋愛結婚にあこがれる人
ユッコには学生のころからお付き合いしている渡邊君がいます。
このまま結婚すれば、典型的な恋愛結婚となるでしょう。
一方の薫ちゃんは、恋という恋を知らぬまま、突然結婚します。
薫ちゃんはどうして結婚したのか?
相手とはどこで知り合ったのか?
そもそも薫ちゃんは相手のことが好きなのか?
薫ちゃんの選択は、恋愛結婚にあこがれる人には少なからず衝撃を与えます。
『ままならないから私とあなた』感想、好きなポイント
朝井リョウの小説は、いつも後半にドンと胸をつく鈍い衝撃が待っています。
めちゃくちゃツライいんだけど、そこが好きです。
薫ちゃんの選択に、薫ちゃんの行動に、言葉に、
ぜんぶキレイに振り回されて、心がズシンと重くなる。
人のあたたかみを重んじる、ユッコと同じ感性の人は、ものすごくつらいと思います。
理路整然としていて、何にも言い返せないけど、
ちがう、そうじゃないんだよ、と薫ちゃんに伝えたい。
0か100かじゃない、その間にあるあいまいさが、いかに不確かなものなのか、思い知らされる話でした。
『ままならないから私とあなた』補足情報
文庫版は加筆されている
単行本にはなかったエピソードが収録されています。
ユッコと薫ちゃんの違いがより浮き彫りになっていて、更に心が沈みます…。
同時収録「レンタル世界」もオススメ(※百合ではないです)
レンタル彼女という単語も聞きなれてきたでしょうか。
タイトルそのまま、人間関係のレンタルについて描かれています。
自分が信じる世界、守りたい世界、価値観のアップデートを余儀なくされる話です。
この「レンタル世界」を書くにあたって、
実際にレンタルをしてみた体験談が入っているエッセイもあります。
『風と共にゆとりぬ』は抱腹絶倒なので、おうちで一人で読んでくださいね、絶対!
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